人生初の胃カメラを受けるまでの記録
4月に職場で健康診断がありました。バリウム検査を受けた結果「C判定」胃に軽度の炎症があるとのこと。医師元で検査を行うことを推奨すると書いてありました。
「なるほど」
まあこの世に生まれて今までうん十年、人に勝っているのは食い意地くらいしか思いつかない私ですし、激辛なんかも好んで食べますし、そりゃ軽度の炎症くらいありますわな。
炎症と言われても別に痛くも痒くもないし、別になにもしなくていいんじゃね?
職場の雑談の中で同僚にそうぼやくと「いや、じゃあなんのためにバリウム検査したの?」とど正面からの正論。私は言いました「それな」
バリウム検査は任意なので、私は自分から希望して検査を受けたのです。特に胃に不調があったわけでも、なにかあるなら見つけたいと思ったわけでもないのになぜ検査を受けたのか。
単に興味があったからです。バリウム検査ってよく聞くし大変らしいけど具体的にどんな感じなんだろう、体験してみたい!
自分から受けに行くのは面倒だけど、職場で受けられるならそんなお得なことはない。タダだし。
ということでまずはバリウム検査を受けた時のことを記憶から掘り返します。
検査服に着替え、担当のスタッフさんから「発泡剤(胃を膨らませる薬)」と胃の泡を消す薬なるものを受け取って飲みます。
この発泡剤なるものがまず第一の難敵です。飲んだ瞬間から胃の中から空気が喉へ上がってこようこようとしてきますが、絶対にゲップをしてはいけないと、ポケモンを待っていないと最初の草むらには入ってはいけないと、そのくらいキツく言いつけられるのでとにかく我慢をします。
「検査の経験はありますか?」
「はじめてです」
「はじめての方入りまーす!!」
スタッフの方が検査室の技師さんにそう伝えたとき私の頭の中のイマジナリー居酒屋店員が「いらっしゃいませー!」と応えたのがはっきりと聞こえました。
カーテンを開けて検査室へ入ると、そこは試着室程度の狭い空間に、宇宙船のコールドスリープ用の機械のようなものが縦に置かれていました。
正面にはガラス板一枚隔てた先の小部屋に技師さんがおり、こちらに向いたスピーカーから声が聞こえる仕様になっています。
一言挨拶くらいしたいのに、口を開こうもんならゲップが出てしまいそうなので固く口を結んだまま目線だけで「お頼み致す」と伝えるのが精一杯。
そんな私に技師さんも「任せてください」と頼もしい顔で頷いてくれたような気がします。
スタッフさんから手渡されていた大きめの紙コップに満たされた真っ白の液体を持ったまま、指示に従って台に上がります。
「ではまず、コップの中のバリウムを何回かに分けて全て飲んでください」
ここで第二の難敵の登場です。
バリウムは昔に比べると相当味や飲みやすさが改善されていると聞いてはいましたが、サラッとしているようでドロっとしていて一口含んだ瞬間に口の中の粘膜にベタベタと張り付いてくるのが分かります。
こんなの飲み物じゃねえ!と体が拒否する声が聞こえてもスピーカーからは「はい飲んでー全部飲んでー」と逃げを許さない技師さん。
ですが、私もガラスの仮面を愛する女として負けるわけにいきません。北島マヤが泥団子をうめえうめえと食ったあのシーンを思い出して、今こそ仮面を被るときだと。
おらあ、トキだ!
思い切ってバリウムを飲み干し終えた口の周りは白いカピカピが薄く張り付いた状態ですが、拭うことは許されません。今の私に泥団子を吐き出せと背中をさすってくれる速水真澄はいませんでした。
そこから先は目まぐるしい怒涛の展開。
「バリウムを胃全体に回すのでぐるっと一回転してください」
台の上でゴロゴロと転がる私。
「右にもう一回転」
ゴロゴロ
「左にもう一回転」
ゴロゴロ
「うつ伏せになって」
「仰向けになって」
とにかく指示に従って台の上をゴロゴロ転がり回って半分息も上がってきますが、一息つく間もなくスピーカーからは指示が続きます。
「右斜め45度!」
「はい!」
「もう少し右!」
「はい!」
「行き過ぎたちょっと戻って!」
「はいっ!」
最初のバリウムを飲んだ時から気持ちを引きずっているので気分は完全に月影先生のスパルタ指導を受ける北島マヤ。
挙げ句の果てに台が回転して頭を下に腕の力だけで体重を支えるという責め苦を受けたときは「どうして私がこんな目に…」という考えが頭をよぎりますが、月影先生は無駄なことなんでさせない、全ては紅天女を演じるため。そう自分に言い聞かせひたすら指導に従います。
「よく耐えたわね、マヤ」
「月影先生…!」
全ての工程を終えた私に暖かく微笑みかける技師さんと心の中で会話をし、なんだが晴々とした気持ちのまま検査室を後にしました。
人間として一皮剥けた気がする。検査を受ける前と受けた後では同じ空でもなんだか違って見える。
そんな達成感で満足してしまい、結果なんて正直どうでもいいという本末転倒なことになったので、結果が返ってきたところで気にしてなかったのでした。
話が冒頭に戻ります。
検査を受けて結果が良くなかったのだから、追加で精密検査を受けるべき。同僚の至極真っ当な指摘を受け、私は近所にある胃カメラに特化したクリニックを予約しました。
初日は問診と血液検査、そして胃カメラを受ける日を予約します。
胃カメラは鼻からか口からか選べること、鎮静剤を使って寝ている間に終える方法もあることを教えてくれます。
初めてなので苦痛の少ない鎮静剤を使って口から入れる方法でお願いすることにしました。
担当の先生がそれはそれは優しい口調で「胃カメラの日は朝一番の時間にやろうか、そうすれば早くご飯食べられるからね、お腹空いちゃうもんね?」と言ってくれるので「私は3歳児かな?」と思いつつ「でへへ」と丁寧に感謝の言葉を述べてその日は終了。
そして次の週、これを書いている今日、検査を受けてきました。
自分の体を使った実験のようでワクワクする反面、なにせ胃カメラどころか鎮静剤も点滴すら初めてなのでそれなりに緊張していたのか、当日の夢で「朝起きて寝ぼけたままおにぎりを食べてしまってから胃カメラの日だ!と気づいて半泣きでパニックになる」という夢を見て飛び起きる始末。
起きてからしばらく「食べた!?私食べちゃったっけ!?」と布団の上でおろおろするという、写真に収めていたら「滑稽」というタイトルで展示して欲しいくらいのムーブをかましつつ、顔を洗って服を着替えいざ出陣。
クリニックへ到着すると検査室へ通されます。そこで胃の泡を消す薬を飲み、ストレッチャーの上に横になりました。
その周囲には既に胃カメラの機械やモニター、その他名前もわからない精密機械が私の周りをぐるっと取り囲んだ状態。
看護師さんは筋肉がなく血管が見えにくい私の腕にもスッと点滴を入れてくれました。さすがプロの手腕、頭が下がります。
するとすぐにお医者さんが現れて「喉の麻酔をしますよ」と口の中にシュッシュッと液体をかけてくれるのですが、これが苦いやら辛いやらで「んぐあっ」と苦悶の声が出ます。
一度はなんとか飲み込んで、二度目は喉の奥に溜めておくように言われ、我慢しているとみるみるうちに喉の感覚が鈍くなってきます。
じんじんと痺れているような、なにか詰め込まれているような、変な感覚のまま「ちょっとお待ちなすって」とも言えないうちにあれよあれよと体を横にされマウスピースを噛まされ声も出ません。
「はいでは鎮静剤を入れますね」
キタッ!!
私は思いました。初めての鎮静剤だ!どんな感じなんだろう、いつ頃から眠くなるんだろう、うとうとするまで少し時間かかるのかな、少し怖いけど楽し
「目覚めましたか?終わりましたよ」
「は?」
次の瞬間、私は最初に入ったのとは別の部屋にいました。周りをカーテンに囲まれただけの場所に看護師さんが立っています。
「ここで1時間くらい鎮静剤が抜けるのを待ちますから、横になっててくださいね」
終わった…だと…?
カーテンが閉まって看護師さんがいなくなった瞬間、私はバッと腕を伸ばし枕元にあった鞄から手探りでスマホを取り出しました。
そんな…全く記憶がない…いったい私は何分、いや何時間寝ていたんだ、今は西暦何年だ!
病院に着いて検査を始めたのが9時ちょうど頃、そしてスマホに表示されていたのは9時24分、全身の力が抜けました。
驚くべきことに喉にまだ若干麻酔が残っているような感覚以外は体の違和感は全くありません。
本当に胃カメラをしたのか疑いたくなるほど、来た時となーんにも変わらない。科学の力ってスゲー!と思うと同時に私は自分で思っていたよりも無力だと謎の物悲しさも感じます。
1時間ほどうとうとしながら過ごして休ませてもらった後は、胃カメラの画像を見ながらお医者さんの説明を受け、追加でピロリ菌の検査もしていただきました。
そっちはウィーダーインゼリーの空の容器みたいなものに息を吹き込むだけという簡単なもので、結果は2週間後にわかるそうです。
胃カメラをした際に検査のため少し組織を摘んだということで、胃の粘膜を保護するお薬をもらいました。
緑色のスライムみたいな、スノーピアサーのソイレント・グリーンを固める前みたいやドロっとした液体のお薬で、味はほぼなくスライムを飲んだらこんな感じとしか言い表せない味わい。飲んだ後はなんだか少し落ち込みました。
ちなみにこれは3日間、一日4回飲まなばならないそうで、バリウムより胃カメラよりこっちの方が辛いやんけ…今はそう思っています。
書き始め想定していたより長くなりましたが、人生初のバリウム検査と胃カメラの体験談になります。
これから受ける方がいましたらご参考になれば幸いです。
皆様が健康でありますように。サカエ